『ゴサンケのヒミチュ』

“火の精霊というものは、元来気性が荒く、活発なものが多いと分類される。
その気鋭ゆえ、精霊史に祭典の文化を生み出したのは主に彼らである。
然しながら、そうではない精霊も多種存在するというのは、また別の話だが。”


[精霊の敬愛事由/著・ドロゥジーより引用]

*** 数多の種族が睦まじく共存する、奇跡の王国エグリアには、 形ないいのちである精霊が暮らす、神秘的な聖域がある。 太陽がさんさんと昇り、見渡す限り雲ひとつない青空。 いわゆる精霊界に、祭典の季節が巡ってきた。 祭典の会場は、火の精霊ラダマンティの治める炎の聖域。 本来であれば他属性の精霊が侵入することを許されない場所だが、 催事など特別な時には、統治者の判断によりこうして解放されるのだ。 すでに祭会場と化した聖域は、普段の厳格な雰囲気とは打って変わり屋台が連なっている。 あくせくと右往左往する者たちの中には、火属性以外の精霊の姿も珍しくはない。 あちらこちらで仕出し等の準備に追われるガヤの中で、 突然とりわけ明るく目立つ声が会場内に響き、そこにいる者たちの視線を一身に集めた。 「遅くなっただッチ! ボッチもお店出すだッチ!!」 何よりも毎度おまつりを心待ちにしているのは、この小さな火玉の精霊、カグッチである。 少し、若干、ちょっぴりものぐさな性格が災いし、出店の登録申請が当日になってしまったらしい。 これが常識を踏まえた精霊相手であればやんわりとお断りできるところだが、 彼の性格をよく知る、受付担当のトンカリフはやれやれまたかと眉を潜め、小さく炎の息を漏らした。 カグッチの持ってきたエントリーシートには、如何にも元気な字で大きく彼の名前が書かれている。 だが、屋台の出店申請ができるのは、三人一組でというルールがある。 互いに助け合い、不慮の事故を無くそうとラダマンティの掲げた決め事であり、 どうあっても破ることはできないのだ。 「おいおい。お前、いつも祭には参加してるクセに知らなかったのかよ~ッ!? ひとりじゃ、出店は認められないぜ~。あとふたり、メンバーを連れてこねえと‥‥。」 「だってボッチ、お店を出すのは今回がはじめてだから知らなかったッチ!! なんで先に、優しく教えてくれなかったッチ!?」 「そう言われてもよう。店を出す出すって張り切ってたから、知ってるもんだと思ってたぜ~ッ! ‥‥にしても、お前のダチはもうほとんど登録しちまってるしなぁ~。」 と、宥めるどころか、火精霊に油をそそぐトンカリフ。 カグッチの小さな炎はプルプルと震え、見る見るうちにその激しさを増してゆき、 トンカリフに一度手渡した登録用紙をバッと奪い返したかと思えば、噛み付くように威嚇する。 「もういいッチ! メンバーがいないなら、作ってくるッチ!」 そう言ってひとり勝手に逆上し、祭会場を飛び出して行ってしまったカグッチ。 心配そうに様子を伺う者もいたが、大半は口角を上げ、次の展開に期待しているように見えた。 カグッチの常軌を逸した無鉄砲な行動には、みなが注目していたりする。 今宵もまた、何か面白いことをやってくれるに違いないと――そんな期待の目が向けられていた。 もっとも、関わり合うとたちまち面倒なことになるのだが。 事実、彼にはトモダッチ――いわば友達が多く、行く先々で声をかけられるのは日常茶飯事である。 それゆえに、新たに友人を作るのがかえって困難なのだ。 すれ違う小さな精霊から大きな精霊まで、軽い挨拶を交わす中‥‥ そういえばどんな屋台にするのかも決めていなかったなどと考えながら、湖の畔までやってきた。 「おまつりと言えば、お魚の塩焼きだッチねー! ボッチ、魚を焼くのもトクイだッチ!」 特別に魚釣りを得意としているわけではないが、大概のレジャーには自信がある。 メンバーを集める目的さえすっかり頭から抜けているのか、意気揚々と水面に近づこうとした所で、 何かうるうるとした、青い物体が岸に打ち上げられるようにして倒れているのが見えた。 「‥‥ん? やや! あんなところに、クラゲが倒れてるだッチ!」 「クラゲじゃありません~。 ‥‥ウェッ!! ゴホゴボッ! オェエッ!!」 ゆっくりと身体を半分起こし、脚かと思われた繊維状の隙間からクラゲ、もとい女の子の顔が覗いた。 水を多く含有したその姿は、どうやら水の精霊と見える。 開いた口から美しい声が言葉を紡ぐかと思えば、今度は別モノのような、濁った咳が飛び出した。 カグッチはその様子に一瞬飛び退くが、苦しんでいる女の子を見捨てられない優しさも しっかりと兼ね備えたよいこである故に、その背後に回って炎をまとう手のひらを伸ばした。 「ぎゃっ!? めっちゃ苦しそうだッチ!? ボッチが背中させってあげるッチ! さすさす‥‥さすさす‥‥。」 傷を癒やすルーンを不得手とするカグッチは、名も知らぬ水精霊の咳がどうにかおさまるまで、 その小さな手で背中を撫でることしかできなかった。 彼女が苦しそうな咳を繰り返すたび、彼はより気持ちを込めて、何度も何度もさすり続けた。 「ゲホゲホッ! オエッ! ゴホッ、ゲホゴホッ!」 やがてその咳が落ち着いてきた頃‥‥。 蒼く染まっていたはずのみなもは、すでに橙色へと輝きを変えていた。 「はぁはぁ。やっと落ち着いてきました~。ありがとうございます~。 ‥‥はっ! あなた~、手が~‥‥。」 乱れていた前髪を揺らしながら顔を上げると、薄ら開いた瞳を、もうひとつ大きく開いて揺らした。 火玉を司るカグッチが、水をまとう自身に触れるとどうなるか。 深く考えずとも、目の前でしゅわしゅわと水蒸気を上げている様子を見れば、結果は明確である。 すっかり蒸発してしまった手を隠すようにしていつものように腕を組み、 ちょっぴり背伸びしたような口調でカグッチは言った。 「大丈夫だッチ! こんなの、ぜ~んぜん大したことないだッチ! あったかいところでフーフーすれば、すぐ元通りになるだッチ!!」 「あぁ~、そうなんですか~。それはよかったです~。 それでは~、用事があるので~さようなら~。」 すっかり体調が回復した彼女は名乗りもしないまま、ふよふよと宙に浮いて緩やかに言った。 口では問題ないと伝えたが、まさかそれを文字通り捉えられるとは思わなかったカグッチは、 慌ててあとを追いかけ呼び止める。 「ま、待つだッチ! ボッチと、トモダッチにならないんだッチか!?」 「おともだち~? そういうの、間に合ってます~。 世は~、自衛の時代です~。」 今度こそナンパまがいの下手な申し出をきっぱりと断り、夕焼け空へと消える。 そのまま、彼女が再びカグッチへ振り返ることはなかった。 もともと火属性である自身が苦手としているだけあって、水を司る女友達は少ない自覚はあったが、 それにしたって、こうも冷たくあしらわれてしまうと、多少なりとも傷はつく。 一瞬だけじわりと涙を滲ませるが、もともと沸点の低い思考回路はすぐに悲しみを怒りに変える。 すっかり形をなくした手元にふうふうと口をすぼめて吹き付けながら、 無意識にひとり文句をぶつくさ垂れつつ、畔からつながる森に踏み入った。 「なんだッチ! なんだッチ! せっかく優しくしたのに、このザマだッチ! だからボッチ、水属性の女の子はキライキラーイだッチ!!」 ずんずんと奥地へ進むほどに苛立ちを増させ、ボンッ!と小爆発を起こす。 蜜柑色に染まる木々の中から、何か鈴のような声が響き渡ったかと思えば、 小さな緑色のシルエットが、ひらひらとカグッチの目の前に現れた。 「ひゃああ~~!」 一瞬落ち葉のように見えたが、よく見ればフェアリー族のように背中に羽が生えている。 全身をドレスのように着飾った緑の葉っぱを見るなり、どうやら風の精霊のようだ。 ‥‥などと、冷静な分析をしている暇はない。 なぜならば、その葉っぱに鮮やかな赤い炎がぼうぼうと燃えているからだ。 「もも、燃えてるッチ!! 大丈夫だッチか!?」 「大丈夫じゃ~ないで~す~。むり~。 ああ~、急いでいるのに~。」 「任せるッチ! すぐボッチが消してみせるッチ! そーれ、フー! フー!」 まさかそれが自身から飛び火したとは夢にも思わないまま、 燃え広がってゆく炎に向かって息を吹き付ける。 だがしかし、カグッチの懸命なフーフー虚しく、炎の大きさは増していくばかり。 それはつまり、彼女のいのちの灯火が消えゆくと同義にも関わらず、 当の本人からは、まるで危機感のない呑気な声が返ってきた。 「ふわ~。余計に燃えてま~す~。 シーファの天命~、ここで尽きるので~す。さよ~なら~。」 どこかで聞いたばかりのような、気の抜ける断末魔である。 しかし、その刹那。 小さな氷のつぶてが背後からカグッチの脳天を掠め、シーファと名乗った精霊へと飛んでゆく。 冷たく冷やされた葉は焦げくさい臭いだけを残し、無事鎮火されていた。 炎を消すまでの何個かはカグッチやシーファの身体に当たり、傷をつけていたことは今は言及しない。 ところどころ凍傷を負ったふたりの視線の先には‥‥ あの、水の精霊がいた。 青々とした葉っぱはすっかり焦げてしまったが、 悪運強く無傷の羽を羽ばたかせながら、シーファは彼女へ心からの礼を伝えた。 「ありがとう~。助かったので~す、水の子~。」 「困ったときは~助け合いです~。風の子~。 私の名前は~、サリアです~。」 どうやらはじめて会ったようなふたりだが、その口調や性格が姉妹のように似通っているのもあり、 やんちゃ坊主が入る隙間など、当然あるはずもない。 あんなに献身的に助けた自分には、名前も教えてくれなかったのに。 火の子も、仲間に入れて欲しいッチ。 カグッチは唇を尖らせたが、すっかり消沈してしまい、自らその場を後にした。 悲しいことがあった後には、必ず嬉しいことがある。 カグッチはよく自身をこうして慰めるのだが、それは彼なりの処世術なのかもしれない。 ――空を眺めれば。 お天道さまはカグッチを待たず、いつの間にかおやすみしている。 かわりに、月だけがそこにいてくれた。 宛てもなく半ば自棄になって猛進していたせいで、馴染みのない森に来てしまった。 特に夜では景色が変わってしまい帰り道がよくわからない。 こういう時、先刻出会ったふたり組がひょいと現れて窮地を救ってくれるのが定石というものだが、 なかなかどうして、世の中はそううまくはできていないのだ。 お出かけしたり、ご飯を食べたり、いたずらしあう相手はいるけど。 困ったときに助けてくれる、ほんとのトモダッチはいないッチ‥‥。 わんぱくに見られがちだが、本当はとても寂しがり屋で、強がりはその裏返し。 今はきらきらと輝くお月さまの光だけが、ちょっとだけしぼんだカグッチの味方をしてくれた。 *** 「結局、おまつりのメンバーは集められなかったッチね‥‥。」 月明かりが導いてくれたおかげで、会場に戻って来られたのはいいものの、 既にどこの屋台も、今夜開催のおまつりに向けて十分に準備を終えている頃だった。 今からエントリーをし、材料を揃えて本番に備えるには、もちろん時間はおろか、体力もない。 はぁ、と小さなため息を吐き、うらめしささえ帯びた表情で屋台通りを眺め見るや、 片隅にひとつ、不自然にぽつんと看板も立てられていない店が目に入る。 もしかして自分の登録が受理されているのかもしれないと、万が一の期待に胸を踊らせ、 はやる気持ちでカグッチは、店の正面へと駆け寄った。 「あっ」 「あっ」 「あっ」 そこにはなんと、水の精霊サリアと、風の精霊シーファがいるではないか。 カグッチは大きな瞳を丸め、自身でも気付かぬうちに回復していた両手でふたりを指差した。 「どど、どーしてふたりがココにいるだッチ!?」 「あら~、あなたは~。 実は~、シーファたち~ここで出店する予定だったのに~。 それぞれ~お友達が~、病気になってしまったので~す。」 「私たち~おともだち少ないので~、代わりの子も見つけられずに~‥‥ こうして露頭に迷って‥‥ブエッゲホッ!」 時間もない。体力もない。 だが‥‥カグッチには。 誰にも負けない、持ち前のやる気だけは十分に残っていた。 「な~に言ってるッチか!! ふたりのトモダッチは、目の前にいるッチ!!」 「‥‥‥‥。」 突然の自信満々の申し出に、サリアとシーファは顔を合わせた。 互いが互いの言葉を待っていたゆえに、どちらの口も開かない。 だがその答えをカグッチが待つはずもなく、小柄な身体でくるっと回転し、一喝を浴びせる。 「ふたりともー! 何やってるッチー! おまつりはもう、はじまるッチよー!!」 この火の精霊とは出会ったばかりで、何も知らないけれど。 それでもなぜか、どこか放っておけない。 どちらともなくふと笑みをこぼしたふたりが、準備を開始しようとしたその時。 「あっ」 「あっ」 「あっ」 ボンボンッ!と、カグッチの頭が、ものの見事に爆発した。 カグッチの分身のような火の玉は、軒を連ねる屋台に向かって放たれた。 こうなってしまっては、カグッチ自身でも止めることは不可能。 今回は怒りや苛立ちで爆発したのではない。 単純に、テンションが頂点に達してしまったのだ。 【おまつりのおやくそく・第823条】 屋台に向かって、火を放っては絶対にいけない。 主に丸太で組み立てられた屋台は、着火した瞬間にパチパチと火の手を広げ、 隣、そのまた隣にごきげんに燃え広がってゆく。 全員が細心の注意を払って、開催を迎えようとしてきたところだったのだから、 一瞬でカグッチの周囲は、出店予定の精霊で一瞬で囲まれてしまった。 「やい、カグッチ!! オレの勇者コレクションくじの景品が燃えちまったじゃんか!」 「あーし‥‥これで店番しなくて済んだす‥‥。 それでは、おやスミス。」 「あたしは~♪ 大丈夫~♪ この美貌と~♪ 澄み渡る歌声があれば~♪ らら~♪」 全方位から罵声を浴びせられ‥‥ているわけでもないようだが、 みんなが頑張って日々作り上げてきた屋台を燃やしてしまったのは事実。 カグッチは揉まれに揉まれ、やれ罰金だ、やれ追放だと、様々な罰が与えられそうになるも、 おまつり帝王・ラダマンティが下した判決は‥‥。 *** 「なんでボッチが!! アルバイトなんかしなくちゃいけないんだッチー!!」 祭囃子が響き渡る中、カグッチは大量のケモの肉を抱えて、メインストリートを何度も往復していた。 お手伝いを頼まれたのは、精霊界きっての一流のおじさんコック――水の精霊ポシードンのお店。 丁寧に育てられた熟成肉に、こんがり網目が付けられた『ケモの肉焼き』である。 長椅子の大半が燃えカスになってしまったおかげで、客はふたりしか見受けられないのだが、 その客というのが、火の精霊マチネーと、闇の精霊ヤムヤミーであれば話は別だ。 「ふむ‥‥このアイスベリー添えの肉というのも、また珍味じゃのう。 カカカッ、おかわりじゃ! ついでにおみやも包んでまいれ!」 「ケモノニク! ウマイ! オレ! ヤタラスキ! オレ! オカワリ! ヤキザカナモ! クウッ!!」 何度ケモの肉を補充しても、次の補充に来た頃にはストックは空になっている。 一般客がナナイロチョコバナナやソースポテト焼きを食べている姿を横目に、少しでも立ち止まると、 火玉の手も借りたい店主たちから、次々に声をかけられてしまう。 「ドロロンッ! キサマ、敏腕アルバイターでゴザル! オレの店の魚を、『サンマイオロシ』にするのを手伝うでゴザル!」 「ちょっと、あんたー! うちの『ゴルド丸太すくい』、手伝ってよ! イケメンじゃないんだから、真面目に働かないと殴るからねっ!」 「うるさいうるさーーい!! 無理だッチ!! ボッチは今、お肉で手がいっぱいだッチーー!!」 せっかく、サリアとシーファとトモダッチになれそうだったのに。 ボッチはいつもこうだッチ。 お出かけしたり、ご飯を食べたり、いたずらしあう相手はいるけど。 困ったときに助けてくれる、ほんとのトモダッチは――。 また、悲しい気持ちになってしまったその時。 花火の打ち上がる音と共に、聞き覚えのある声が聴こえた。 「ゴルド丸太すくいです~。 売れば一攫千金、そのまま食べても‥‥ウェッホ! ゲホッ!」 「サンマイオロシ、やりま~す。やったことないですけど~。 あらら~、キットカツオが~バラバラで~す。」 光の精霊ユメルのお店では、声帯の弱いサリアが。 咳をこらえながらも、大きな声で客寄せをしている。 水の精霊サンサガリのお店では、魚などさばいたこともないシーファが。 はじめて持ったニンジャ刀を片手に、とりあえず魚を刺している。 ふたりが火をつけたわけでもなく、むしろ自分たちの屋台を焼かれてしまったのに。 カグッチを手伝ってアルバイトをしている姿が、そこにはあった。 「みんな‥‥」 ふたりは、何も言わなかった。 でも、その何気ない優しさが嬉しかった。 カグッチは、本当の意味でトモダッチができたように感じた。 *** 太陽がさんさんと昇り、見渡す限り雲ひとつない青空。 精霊界に、また祭典の季節が巡ってきた。 「この時期になると、あのときを思い出すので~す。」 ぽかぽかと太陽の光が射し込む木漏れ日の下、シーファは言った。 “あのとき”よりも青々とした成長した葉っぱは、いのちの息吹をより感じさせる。 「そういえば~、あのとき~。 チーム名も考えられませんでしたね~。」 ころころと笑いながら、当時のことを思い出すのはサリア。 “あのとき”よりも少しだけ伸びた髪を風に揺らし、さえずるような愛らしい声で言った。 自然によく映える、美しい翠と蒼。 そこへ予想外のスパイスをぶちまけるのは、いつだって紅色である。 「そんなの、ボッチはずーっと前から決めてるのがあるッチよ!!」 “あのとき”とは何も変わらないカグッチが、腕を組んで声高らかに言う。 「『ゴサンケ』! だッチ!!」 「ゴサンケ‥‥?」 聞き慣れない妙な言葉にシーファは首をかしげるが、 サリアはハッと目を開き、ひんやりした手を合わせて歌にした。 「そういえば~♪ 私は~♪ 『ゴ』ルド丸太すくいの~♪ バイトをしました~♪」 それを聞いたシーファが、同じく木々香る手を合わせて続く。 「シーファは~『サン』マイオロシ~。 カグッチは~確か~。『ケ』モの肉焼き~でしたね~。 なるほど~、それで『ゴサンケ』‥‥。悪くはないですけど~。」 「ですけど、なんだッチ?」 「絶妙にダサいので~す♪」 サリアのきっぱりとした一言も、“あのとき”と変わりない。 でも今は、気を許した仲間に対するそれだということも、みんなココロのどこかで分かっているのだ。 「な~に言ってるッチ! みんなのはじめての共同作業で、友情パワーが炸裂した日だったッチ! ボッチは、一生忘れないッチよ!!」 「シーファは、カグッチに燃やされたことがトラウマで~す。 一生忘れられないで~す。」 「それはもう忘れてって、いつもお願いしてるッチよー! いけずだッチー!!」 ぶんぶんと両腕を振り回して抗議するカグッチをひらりと避けた先、 サリアの横に並び、ふたり目を合わせてくすくすと笑った。 「何を言ってるんですか~。忘れませんよ~。 これは~、シーファ達がはじめて出会ったときの~思い出なので~す。」 「私たちがこうして仲良くなれたのは~♪ カグッチのおかげです~♪」 お出かけしたり、ご飯を食べたり、いたずらしあう相手もいるけど。 困ったときに助けてくれる、ほんとのトモダッチができたッチ! 「ウワーン! ふたりとも大好きだッチー!」 「そういうところ~」 「うっとおしくて~♪ 嫌いです~♪」 「ガーン! ひどいッチー! 超いけずだッチー!!」 お気に入りの場所での、ひなたぼっこ。 約束はしていないはずなのに、毎日一緒にいるのは、いつからだろうか。 御三家、もといゴサンケの絆は、もうとっくの昔にできあがっていたのかもしれない。 彼らがいつ、チャボに出逢うのかって? それはまだまだ先‥‥遠いあしたのお話です。

~おしまい~